インターネット革命とデザインブームという2つの流れが合流するところで生まれたデジタルプロダクトがSONYのVAIOとAppleのiMacだ。
VAIOが登場したのは1997年。なかでもVAIO 505シリーズは画期的な薄さと軽さ、バイオレットカラーの筐体で、それまでの地味なPCデザインとは一線を画すモデルとして衝撃的なデビューを果たした*1。この頃のSONYはまだまだ僕らをワクワクさせてくれていた。1999年のAIBO、そして2000年のPlayStation 2とソニーらしい革新的な商品が次々登場する。個人的にはAIBOの登場が強烈な印象として残っている。TVCMの中でよちよち歩くかわいいAIBOの姿に感動したのを思い出す。25万円という価格であったが、これはなんとしても買わなくてはならない商品だと感じネットで予約申込をしたものの抽選にハズレ、結局買えず。
VAIOが登場した翌年1998年にはスティーブ・ジョブズが復帰したAppleからiMacが登場。その革新性は事前に展開されたAppleの広告キャンペーン"Think different"を裏切らなかった。キャンディカラーを纏ったトランスルーセント(半透明)のボディは、トランスルーセントブームを巻き起こす。iMacの周辺機器のみならず、文房具や雑貨、携帯電話にいたるまで半透明のキャンディーカラーを纏った。
1999年にはiMacのノート版、iBookが登場する。VAIOやiMac、iBookの登場により、デスクトップPCはインテリア*2に、ノートPCはファッションになった。
マーケティングやブランディングの世界では「モノからコトへ」「ファンクションからエモーションへ」あるいは「エクスペリエンス」といった言葉が流行。Appleとスターバックスが、その頃海外で出版された大抵のマーケティング書籍の中に代表事例として登場する。機能とか性能とかで差別化するのはもはや困難であり、ワクワクするような体験、心に響く経験をデザインすること!時代は「デザイン」だった。「デザイン」は企業の経営資源の一つであり、デザインをコアコンピタンスにするべきである。デザインこそが企業のブランド価値を高め、企業に利益をもたらす。90年代後半からゼロ年代前半のマーケティング、ブランディングはこういう具合にデザイン礼賛の時代だった。*3
2001年1月、スティーブ・ジョブズは「デジタルハブ構想」と共にiTunesを発表、そして2001年10月、初代iPodを発表した。一方、ソニーは2003年6月、機能やスペックではなく“感動価値の創造”を標榜した新ブランド“QUALIA(クオリア)”を発表したのだった。
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*1 デザイン性に優れたノートPCがVAIO以前に全くなかったわけではない。マリオ・ベリーニがデザインしたオリベッティのQUADERNOシリーズ(1992年)、そしてミケーレ・デ・ルッキがデザインしたEchosシリーズ(1993年)は、当時、Mac以外でデザイン性の高いパソコンとしてはほぼ唯一の選択肢として異彩を放っていた。もっともVAIO 505のようには軽々と持ち運べる代物ではなかった。
*2「このようなインテリアとプロダクトの関係性は、過去にも例を見ることができます。ドイツを代表する家電メーカーでありモダンデザインのお手本的存在であった「ブラウン」社は、アメリカの家具メーカー、ノール社のインテリアに合う家電というのが元々のデザインのコンセプトだったとのことです。」『DESIGN=SOCIAL デザインと社会のつながり』柳本浩市 ワークスコーポレーション P.021
*3 この時代を象徴する代表的な書籍として以下の2冊をあげておきたい。
マーク・ゴーベ (著)
経験価値マーケティング―消費者が「何か」を感じるプラスαの魅力
バーンド・H.シュミット (著)
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