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2010年4月26日月曜日

デザインケータイの10年:インターネット革命とデザインブーム その2

インターネット革命とデザインブームという2つの流れが合流するところで生まれたデジタルプロダクトがSONYのVAIOとAppleのiMacだ。


VAIOが登場したのは1997年。なかでもVAIO 505シリーズは画期的な薄さと軽さ、バイオレットカラーの筐体で、それまでの地味なPCデザインとは一線を画すモデルとして衝撃的なデビューを果たした*1。この頃のSONYはまだまだ僕らをワクワクさせてくれていた。1999年のAIBO、そして2000年のPlayStation 2とソニーらしい革新的な商品が次々登場する。個人的にはAIBOの登場が強烈な印象として残っている。TVCMの中でよちよち歩くかわいいAIBOの姿に感動したのを思い出す。25万円という価格であったが、これはなんとしても買わなくてはならない商品だと感じネットで予約申込をしたものの抽選にハズレ、結局買えず。


VAIOが登場した翌年1998年にはスティーブ・ジョブズが復帰したAppleからiMacが登場。その革新性は事前に展開されたAppleの広告キャンペーン"Think different"を裏切らなかった。キャンディカラーを纏ったトランスルーセント(半透明)のボディは、トランスルーセントブームを巻き起こす。iMacの周辺機器のみならず、文房具や雑貨、携帯電話にいたるまで半透明のキャンディーカラーを纏った。

1999年にはiMacのノート版、iBookが登場する。VAIOiMaciBookの登場により、デスクトップPCはインテリア*2に、ノートPCはファッションになった。


マーケティングやブランディングの世界では「モノからコトへ」「ファンクションからエモーションへ」あるいは「エクスペリエンス」といった言葉が流行。Appleとスターバックスが、その頃海外で出版された大抵のマーケティング書籍の中に代表事例として登場する。機能とか性能とかで差別化するのはもはや困難であり、ワクワクするような体験、心に響く経験をデザインすること!時代は「デザイン」だった。「デザイン」は企業の経営資源の一つであり、デザインをコアコンピタンスにするべきである。デザインこそが企業のブランド価値を高め、企業に利益をもたらす。90年代後半からゼロ年代前半のマーケティング、ブランディングはこういう具合にデザイン礼賛の時代だった。*3


2001年1月、スティーブ・ジョブズは「デジタルハブ構想」と共にiTunesを発表、そして2001年10月、初代iPodを発表した。一方、ソニーは2003年6月、機能やスペックではなく“感動価値の創造”を標榜した新ブランド“QUALIA(クオリア)”を発表したのだった。


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*1 デザイン性に優れたノートPCがVAIO以前に全くなかったわけではない。マリオ・ベリーニがデザインしたオリベッティのQUADERNOシリーズ(1992年)、そしてミケーレ・デ・ルッキがデザインしたEchosシリーズ(1993年)は、当時、Mac以外でデザイン性の高いパソコンとしてはほぼ唯一の選択肢として異彩を放っていた。もっともVAIO 505のようには軽々と持ち運べる代物ではなかった。


*2「このようなインテリアとプロダクトの関係性は、過去にも例を見ることができます。ドイツを代表する家電メーカーでありモダンデザインのお手本的存在であった「ブラウン」社は、アメリカの家具メーカー、ノール社のインテリアに合う家電というのが元々のデザインのコンセプトだったとのことです。」DESIGN=SOCIAL デザインと社会のつながり』柳本浩市 ワークスコーポレーション P.021

*3 この時代を象徴する代表的な書籍として以下の2冊をあげておきたい。

エモーショナルブランディング―こころに響くブランド戦略 

マーク・ゴーベ ()

経験価値マーケティング―消費者が「何か」を感じるプラスαの魅力 

バーンド・H.シュミット ()

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2010年4月4日日曜日

デザインケータイの10年:インターネット革命とデザインブーム

インターネット元年と言われ、Windows95が発売された1995年は、90年代後半からゼロ年代へと続くデザインブームの起点となった年でもある。インターネット革命&デザインブームという世界的な潮流。そして同時期のポスト団塊ジュニアによるコミュニケーション革命&「カワイイ」カルチャーというドメスティックな潮流。これまで何度か述べたように、90年代後半の日本における情報文化&感性を巡る2大潮流の合流点にデザインケータイは誕生した。

90年代後半からゼロ年代にかけて「デザイナーズ家具」や「デザイナーズマンション」、「デザイン家電」そして「デザインケータイ」等など数多くの「デザイナーズ●●」「デザイン●●」を生み出したデザインブーム。国内における一連のデザインブームのとりあえずの起点が、1995年に発売された『BRUTUS』の特集 “イームズ/未来の家具”(1995年6月1日号)。アメリカを始め海外におけるミッドセンチュリーモダン再評価の流れを受け、藤原ヒロシ、NIGO、高橋盾といった裏原宿系のファッションデザイナーたちがイームズ作品のコレクターとしてイームズブームを先導した。1995年の僕自身は、この流れにそれほど関心がなかった。けど当時の記憶を辿ると僕が勤めていた映像制作会社、インターネットを活用した仕事にも手を出し始めていたその会社の小さなスタジオの一角には、確かにイームズのラウンジチェアとオットマンが置かれていた。それはきっと社長がブームに乗じて買ったものだったに違いない。イームズブームは、東京都美術館で「イームズ・デザイン展」が開催された2001年に最盛期を迎える。このイームズブームを契機にミッドセンチュリーモダンの家具だけでなく、広くインテリアデザイン、プロダクトデザインが注目されるようになる。

そもそも90年代後半以降のデザインブームが起きたベースは、80年代後半から90年代前半におけるDTPソフト(QuarkXPressやPagemaker)、グラフィック系ソフト(IllustratorやPhotoshop)、マルチメディアオーサリングソフト(Director)の発達によるグラフィックデザインやマルチメディアタイトル製作、それに続くウェブサイト製作の興隆にある。Macとそれらのソフトがあれば、誰もがデザイナーになれる(と言われた)時代の到来。スティーブ・ジョブスが返り咲く前の低迷期のAppleとはいえ、他のPCのデザインよりもはるかに秀逸なGUIと洗練されたプロダクトデザイン、そこから生み出される味わったことのないクリエイティブな体験。Appleによるグラフィック、マルチメディア革命の中から、東泉一郎、若野桂、タイクーングラフィクス、groovisions、TGB design. といったデザイナー、デザイン集団が登場し、これまでにない新鮮なビジュアル表現を展開した。いずれも廃刊となっているが『GURU』(1994年創刊)『WIRED JAPAN』(1994年創刊)のようなデジタルカルチャー誌、「Design Plex」(1997年)のようなデジタルデザイン誌を開けば、デジタルとデザインが掛け合わさって新しい表現が次々と誕生した当時の興奮が蘇ってくる。                                            

こうしたファッションやグラフィックの文脈の中から、ミッドセンチュリーブームが生まれ、ゼロ年代のデザインブームへと繋がっていく。80年代後半バブル期におけるCIブームの文脈で、ルイジ・コラーニやフィリップ・スタルク、マリオ・ベリーニといった海外デザイナーが活躍した時代を経て、再びプロダクトデザインが注目を浴びるようになったゼロ年代のデザインブーム。それはプロダクトデザイン業界から発出したブームではなく、ファッションやグラフィックの世界からやってきたのだった。