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2010年3月3日水曜日

デザインケータイの10年:au design projectとAppleの知られざる関係

「Appleは世界一のモバイルデバイスカンパニー」。2010年1月、AppleのCEO、スティーブ・ジョブズはiPad発表の壇上でそう言った。Appleに続くのはNOKIA、SAMSUNGそしてSONY。


「iPhoneはケータイではない。小さなMacだ。コンピューターだ。だからメジャーにはならない。」「iPhoneは片手で操作ができない。メールなんてとても打てない。タッチパネルよりも物理キーのほうがいい。」「ケータイではリセットなんてありえない。バグが当たり前の世界は、ケータイユーザーには馴染まない。」・・・「iPhoneはキャズムを超えた。」「今や多くの女性も使っているし、お年寄りだって使ってる。」iPhoneを巡る様々な言葉。


2008年7月のiPhone上陸から1年半が過ぎた。 今、日本のケータイ市場が再び大きく変わろうとしている。世界一進化した日本のケータイは、今やガラパゴスケータイと揶揄され、iPhoneやAndroidのようなスマートフォン勢にこれまでにない攻勢をかけられている。スマートフォンと区別するために、業界ではケータイのことをフィーチャーフォンと呼ぶようになった。フィーチャーフォンとは「機能特化型携帯電話」の意味で、好きなアプリを自由にインストールすることのできるスマートフォンに対して、いろいろな機能があってもユーザーがカスタマイズできる自由度が制限されている従来的な携帯電話を差す。スマートフォンがパソコンなら、フィーチャーフォンはワープロ専用機。文章を打つ目的なら安定してシンプルなワープロの方が、パソコン上で文章を作成するよりも便利だったのに、ワープロは消えていった。ある機能に優れているからといって生き残るわけではないのがこの世の常。10年前、僕にとってPDAは無くてはならない存在だったのにケータイの登場でPDAは見事に駆逐されてしまった。PIM機能としてはケータイは明らかに使いにくかったのにも関わらず。そして今度は、国内で一度絶滅したPDAの延長線上にあるスマートフォンによってケータイが追われる立場になった。


iPhoneの登場で、INFOBAR、talby、MEDIA SKINなどau design projectのケータイを使っていたユーザーの多くがiPhoneに乗り換えた。2004年、僕らはマーク・ニューソンとtalbyを作っていた。作りながらマークやtalbyの音楽を担当していたニック・ウッドといつも話していたのは、Appleとケータイを作ろうということだった。その時マークは、ジョナサン・アイブ(Appleのインダストリアルデザイングループ担当上級副社長)からもらったパーカーを着ていた。ジョナサン・アイブはtalbyをとても気に入っているとマークは言った。2004年11月にtalbyが発売され、2005年9月にiPod nanoが発表された。talbyのドーナツ形状のスクロールキー(センターキー)とiPod nanoのクリックホイールのデザインは全く一緒。角Rの取り方もそっくり。まるで兄弟のようだった。『Mac Fan』2005年12月号にはテクノロジーライター大谷和利氏のアイデアということで、talbyとiPod nanoを一緒に収納できるシリコンケースのアイデアが掲載されていた。


2007年1月9日(米国時間)スティーブ・ジョブズがiPhoneを発表し、携帯電話を再定義した。2007年1月16日、僕らはau design projectの第6弾MEDIA SKIN(デザイン:吉岡徳仁)を発表した。MEDIA SKINが発売されると、MEDIA SKINのメニュー画面をiPhoneのランチャー風に変更できるFlashのデータを誰かが作ってネットに上げた。それでMEDIASKINはiPhoneと融合した。


2007年の夏、チームラボの猪子寿之さんとインタラクションデザインをテーマにしたコンセプトモデルactfaceを発表した。iPhoneの西洋的、合目的的なインタラクションデザインに対して、「操作すること自体が楽しくなる」日本的なインタラクションデザインを目指して。


2007年9月、au design projectの第7弾INFOBAR 2(デザイン:深澤直人)を発表した。2008年夏、新しいiPod nanoのリーク画像がINFOBAR 2に似ているとネット上で話題になっていた。「そんな、まさかね」と深澤さんと話していたが、9月に発表された新しいiPod nanoはINFOBAR 2にそっくりだった。


au design projectとAppleは、あるいはau design projectユーザーとAppleユーザーは、こんな風に昔から物理的にも心理的にも近しかった。だから、iPhoneが出たらau design projectのユーザーが乗り換えることなんて何年も前から僕らには分かっていたことだった。そもそも、au design projectは、Appleのような会社になりたいという思いから企画したプロジェクトだった。一方でiPhoneに乗り換えずにau design projectやそれを受け継ぐiidaをずっと愛し続けてくれているユーザーがいる。あるいはiPhoneと共にau design projectあるいはiidaのケータイを使い続けてくれているユーザーがいる。僕らはそうしたユーザーの期待に応えなくてはならない。Appleとは違う道。

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