『柳宗理 エッセイ』
柳工業デザイン研究会の直営ショップ「柳ショップ」(新宿区本塩町)
平凡社ライブラリー化された『柳宗理 エッセイ』と「今日の芸術」などが収められた岡本太郎の選集『対極と爆発』(ちくま学芸文庫)を先日購入した。二人の著作をとおして戦後日本のデザインとアートをおさらいするために。そしてそこからポスト311におけるデザインの役割のヒントを何か得られるのではないかと。
4月11日、今年で50周年を迎えるSalone de Mobile(通称、ミラノサローネ)を訪れるためミラノへ。飛行機の中で『柳宗理 エッセイ』を読んだ。そこにはデザインという活動についての全てが書かれていた。特に「デザイン考」には、僕がデザインに関係する仕事をするようになって思ったり、感じたり、あるいは人が言うのを聞いたりしたことがすでに”予め”書かれていた。そしてそこに書かれていることは今なお有効で、またそこに記されている問題の全てが今なお継続中だ。
柳宗理、岡本太郎。高度経済成長の孕む様々な問題の真っ只中で、生活とは何か、公共とは何かを考え闘った二人。
以下は『柳宗理 エッセイ』で特に印象に残ったセンテンス。
【科学的知識と科学的技術】
「デザインする行為の中で、数学、力学、材料学、エレクトロニクス、コンピューター等、色々な科学的知識と科学的技術が必要である。しかし、デザイン行為は物の原点より出発すべきだから、すべての科学的知識以前に、行動が開始されるべきである。
【デザイナーは製品構想の出発点から】
あるメーカーから、これから造る製品の内部構造が決まり、技術的に解決したからデザインしてほしい 、と相談を持ちかけられることがたまたまある。しかし、デザインの行為は、原点から始まるのが原則だから、出来るなら製品構想の出発点から、デザイナーが参画するほうが好ましい。然らざれば、デザインは根本的に良くならないであろう。
【マーケット・リサーチ】
マーケット・リサーチなるものは、デザインの創作にとって余り役立っていない。創造的デザイナーにとっては、寧ろブレーキになることが多い。何故ならマーケット・リサーチは過去のデータ分析だからである。
【人間工学】
人間工学データだけでデザインすると、どうも機能的 に完全なるものはできないようだ(例、新幹線の椅子)。分析とは全体のものからあるものを抽出することである。全体を捕らえるには、人体を使って実際に当たってみるほうが、手っ取り早いし、そのほうが上手くいくようだ。
【デザインの協力者】
デザインは一人でするものではない。三人寄れば文殊の知恵と言うが、優秀な技術者であれば、何人いてもよい。二人よっても数倍の名案が出るものなのだ。
デザイナーには特に技術者の協力が必要である。その技術者は頭の柔らかい積極的な人でなくてはならない。良いデザインを生み出すには、出来るだけ良い技術者をピック・アップし、その技術者をいかに協力させるかにかかっている。
【人づき合い】
デザイナーは社会的に孤立してはならない。良いデザインを世に出すためには、あらゆる人とつき合わねばならない。企業者とか、或いは政治家等にも、然らざれば、彼らのデザインは到底実現し得ないであろう。
【良いデザインと企業者】
良いデザインは、それをデザインしたデザイナーだけが偉いのではない。それよりもその優れたデザイナーを見出し、用いた企業者の方が偉いと言えるかもしれない。
企業者は何よりもプロダクトマンシップを持っている人でなくてはならない。手造りのクラフトマンシップに対応するプロダクトマンシップを。
良いデザインは優れたデザイナーのみでは生まれ得ない。その製品を造る企業者、或は製造業者、その製品を販売するは業者、そしてその製品を使用するユーザーが良くなければ、良いデザインはこの世に出現し得ない。
【よく売れるものと良いデザイン】
今日では、よく売れるものは良いデザインであるとは必ずしも言えない。また、良いデザインは必ずしも良く売れるとは限らない。
【アノニマス・デザイン】
もっともデザイナーがいなくても、各技術が有機的にうまく結合されている場合がある。これはアノニマス•デザインと呼ばれていて、大変美しいものである。
【社会問題】
デザインは社会問題である。
【経済成長とデザイン】
経済成長、商品の回転の促進、浪費、以上に奉仕するデザインに対して、今や鉄槌が下されんとしている。
【プロデューサー】
デザイナーがいくら優れていても、プロデューサーが良くないとそのデザインは生まれてこないか、死んでしまうものである。
【良いプロデューサー】
良いプロデューサーとは、まず教養豊かな人でなければならない。また、目の効く人でなければならない。そして決断力があり実行力のある人でなければならない。
【公共のデザイン】
いささかもコマーシャルの要素が入る余地のない道路や走りのデザインは大層やり甲斐のある仕事だが、役所の巨大な組織の中でするために、ややもするとビューロークラティックな障壁にぶつかることがある。特に担当当局の方が事なかれ主義、責任逃れ、意気地のない方だったら手続きが煩雑になり、仕事が停滞しどうにもならなくなってしまう。
【科学的技術利用の放任】
しかし現代の科学的技術利用の放任は、すこぶる利己主義的な目的にのみ利用され、安っぽいため商品をはびこらせるのみならず、自然環境の破壊や幾多の歪みと矛盾を現出させた。原子エネルギーもその用い方によっては人類破滅となるやもしれず、このことは今日の差し迫った緊急の問題とならざるを得なくなった。
【政治家と公的な仕事】
あの新幹線が名古屋、大阪間を遠く迂回して片田舎の羽島に駅を設けたことは、大野伴睦の政治色によるものだったことは有名な話である。そのためにいかに国民が莫大な損失をしているのかということは言うまでもない。権力のある政治家が一地方の利益のために勝手にすることは、公的な仕事としては絶対に許されない。
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