スナブロ SUNA-BLOG: X-RAY :「光」のデザインそして「秘密」

X-RAY :「光」のデザインそして「秘密」

X-RAYの深い色合いが美しい透明のケース。「タフロン ネオαシリーズ」という新素材を採用している。ポリカーボネート(PC)をさらに強化するためのガラス繊維を配合しつつ高い透明性を実現したのがこの新素材。最先端の透明素材ながら、X-RAYのわずかに揺らめく表面に、吹きガラスの味わいあるゆがみのようなクラフト感覚を覚える。このわずかな揺らめきは、樹脂を成形する際のヒケやUV塗料の悪戯によるものだが、それらがかえってマスプロダクトらしくない表情を与えている。

深い色味を帯びた透明なケースの先に見えるもの。美しくレイアウトされた電子部品。液晶ディスプレイを駆動させるためのLCDドライバICや、液晶ディスプレイのバックライトを制御するためのIC。着信時にはその動きも見える超小型バイブモーター。超小型LEDで実現した7×102ドットの超高密度ドットマトリクスLEDディスプレイとそれを駆動させるためのドライバIC。このドットマトリクスLEDディスプレイ、新幹線車内で「朝日新聞ニュース」とか流れているあの電光掲示板の超小型版と思ってもらえればいい。見慣れた装置だけどこの小ささは実は驚異的。各ICを覆っている金属のシールドケースは、普通は錫色だが、わざわざマットブラックの塗装が施されている。ケース越しには分からないが、ICが搭載されているプリント基板の色(=ソルダーレジストの色)も、普通は緑色のところ、X-RAYでは黒く塗られている。基板の上に配置された文字:"QUALCOMM 3G CDMA"、"QSD8650"、"Snapdragon(TM)"、"LIFE>PHONE"。これらの文字は、設計上はここに書かれている必要のない文字だが、基板に相応しいフォントを使って効果的に配置されている。"QSD8650"、"Snapdragon(TM)"というのは、X-RAYに搭載されている米・クアルコム社製の新CPU(クロック周波数1GHz)のことで、このCPU自体は、下筐体側のメイン基板に搭載されている。

透明の筐体から誰もが思い出すのがiMac(1998年)から始まったトランスルーセント(半透明)ブーム。しかし、吉岡さんはこのX-RAY開発当初から、iMacのようなキャンディーカラーの半透明、Yum(おいしそう)な トランスルーセントとは違う方向を厳密に目指していた。もっと大人っぽく、もっと高級感のある透明へ。

iMacの半透明は、それまでのパソコンとは一線を画すポップさ、軽やかさをもたらし、当時のデザインブームの最中でインテリアに違和感なく溶け込む存在となった。iMacの半透明は軽やかさのための表現だ。初期のiMacの半透明ボディに内部を見せようという強い意思はあまり感じられない。iMac DVでは「グラファイト」や「ルビー」など透明度が高く内部がよく見える筐体が採用された。しかし基本的には軽やかな印象を与えるための「外装素材」であった。

スティーブ・ジョブズが基板の部品配置や配線処理についても美しさを技術者に要求し、技術者が「誰がそんなところを見るのか?」と反発したら「俺が見るんだ」と言ったとかいう逸話がある。内部へアクセスするためのスマートさや、内部機構の美しさはAppleファンなら誰しも知っている。ただ、やはり内部は内部としてデザインされ、外部は外部としてデザインされているように思う。iMacの半透明は、美しい内側が見えこそすれ、あくまでポップな装いのための「外装」ということが重要だった。Power Macintosh G3G4 Cubeの半透明あるいは透明ボディは、半透明もしくは透明ながら外部と内部とは隔てられたデザインになっている。総じてAppleの半透明、透明は軽やかさ、非物質性、浮遊感を表現するための「外装」だった。

X-RAYを発表して「キカイダー」みたい!という感想をたくさん見聞きした(笑)ちなみに僕は「キカイダー」ってあまり記憶に無いんですけど。。。まあ、そのキカイダーよろしく、中がどうなっているのかを具体的に示すための、いわゆるスケルトンモデルというものがある。カメラとか電化製品とか車とか、そうしたモノたちの内部構造がどうなっているのかを見せるために敢えて透明のボディで作られたモデルである。スケルトンモデルは「中がどんな構造になっているのか知りたい、見てみたい」という私たちの解剖学的興味を満足させてくれる。そういう魅力を持っている。だがこれらは、内側をデザインしたものでなく、普段は隠蔽されている内部を特別に曝け出したモデルにすぎない。


「プロダクトデザインというよりも、光を直接モノに組み込むことで、まったく新しい表現を生み出したかったのです。」(X-RAY:吉岡徳仁インタビューより)

外側のかたちではなく、内側からデザインされたX-RAY。普通は外装ケースによって隠蔽されている内部機構。その内部をまず美しく整えること。そして、透明な外装の透明度と色合い、見せるものと見せないものを巧みにコントロールする。美しく光を操り、デザインされた内部の見え方を調整する。X-RAYは、外部と内部の間、透明と不透明(隠蔽)の間、光と闇の間でデザインされている。X-RAYは「光」をマテリアルとしてできている。光がどれだけの強度で奥に差し込むべきか、光によって何を見せ、何を見せないのか。そして完成したX-RAY。深い色を帯びた凪の海。その奥底に見える美しい古代都市を眺めるように、私たちはX-RAYを覗き込み、夢中になる。見えてはいるが、そこにはまだ秘密の何かが隠されている。だからずっと見ていたくなる。iMacの半透明は内部がどれくらい見えようが見えまいが、そこに「秘密」は些かも無い。だがX-RAYには魅惑的な「秘密」がある。

0 件のコメント:

コメントを投稿

Copyright © スナブロ SUNA-BLOG Urang-kurai