iida Exhibition 2010 Summer: PixCell via PRISMOID 名和晃平
僕が名和晃平さんの作品に初めて接したのは、おそらく『MACPOWER』誌でだ。アートプロデューサーの山口裕美さんの連載「POWER OF JAPANESE ARTS」で、僕はガラスビーズで覆われたシカの姿を目撃したのだった。ガラスビーズによる作品、「PixCell」シリーズにはau design projectのtalbyをモチーフにした作品もあった。「PixCell」は「Pixel(画素)」と「Cell(細胞・器)」が掛け合わさった名和さんの造語で「映像の細胞」の意味。名和さんの作品に魅せられて、2009年1月、僕らは京都にある名和さんのスタジオに向かったのだった。
不思議な美しさを纏ってしまった様々なモノたち。実はネットオークションで、名和さんが設定したキーワードを元に収集され、選定され、落札されたモノだ。モニター上の画像として=Pixelの集合体として出会われたモノたち。やがて名和さんの元に届けられた“ホンモノ”は、その表皮をガラスビーズで隙間無く覆われていく=「PixCell」というフォーマットに変換されていく。こうしたプロセスを経て物質と映像の狭間を漂うような不思議なオブジェが立ち現れる。
物質と映像、物質と情報、アナログとデジタル、リアルとバーチャル。ブログやMixiやTwitterで、自分を情報化してアップロードすることで生きる時代。名和さんの彫刻作品の世界が、インターネットやケータイ文化を背景とした問題意識の中から生まれていることを詳しく知ったのは、名和さんと会って以降のことである。そんな名和さんが、通信会社KDDIのモバイルプロダクトブランドであるiidaによるアートプロジェクトを手がけることの奇妙な親和性。名和さんの造語「PixCell」=「Pixel(画素)」+「Cell(細胞・器)」は、まるでケータイを思わせる造語だ。カメラの画素数を想起させる「Pixel」と携帯電話=「Cell phone」または「Cellular phone」を想起させる「Cell」という単語。全く持ってそんな意図は、名和さんには無かったと思うけど。
「PixCell via PRISMOID」は、深澤直人さんが手がけたiidaのケータイ、「PRISMOID」とプラスマイナスゼロの液晶テレビをベースにした作品。「via」は「~経由で、~を通過して」の意味。だから「PRISMOIDを通過するPixCell」。物質とイメージ、アナログとデジタルを往来するメディウムまたはビークルである「セル」が、情報そして情動を乗せて「PRISMOID」を次々と通過していく。「セル」に取り込まれた情報、情動は「PRISMOID」を通過することでデジタル化し、増幅し拡散していく。そしてそれは又、「PixCell」化された液晶テレビを通して再びアナログへと変換される。
どのアングルから眺めても破綻を来すことのない彫刻的な形をしている「PRISMOID」、そして薄く量感の無い今日のテレビやフォトフレームなどとは対照的なプラスマイナスゼロの液晶テレビ。プロダクトデザインの輪郭、形象が「セル」によって曖昧に、不明瞭になっていく。「PixCell」化の途上にあるプロダクト。「セル」が通過する結節点、ノードとしての「PRISMOID」はそれ自体が物質と映像の中間物へと生成し始め、不思議な美しさを宿していく。
【関連サイト】
0 件のコメント:
コメントを投稿